木造住宅は湿気対策を万全にして建築しなくてはならない理由
木造住宅は地震に弱いと誤解されている方は少なくありません。大地震が発生した後に、倒壊した木造住宅の映像をニュースでご覧になった方も多いでしょう。木造住宅が地震で倒壊してしまった理由の一つは、湿気対策が万全になされていなかったことです。木造住宅=地震に弱い家ではなく、湿気対策のできていない住宅=地震に弱い家です。
地震に強い家を建てる為には、新築時に高い耐震性を持たせることは当然ですが、それだけでは不十分です。高い耐震性を維持させる設計と、その設計を完璧に実現する施工力が求められます。
Contents
木造住宅の湿気対策① 結露を発生させない断熱施工
高温多湿な時期の長い日本において、いまだに多くの古くからの木造建築物が存在している理由の一つは、通気性が優れていたからです。日本の家づくりは、自然を受け入れながら暮らしていくという日本人の考え方に沿って進められてきました。
欧米の国々のように強固に自分の家を守る造りではなく、窓が多く、家中のあらゆる部分に空気が流れていく造りで、庭の景観や季節の風と融合する家です。また、木材はもちろんですが、その他にも瓦、漆喰、畳、和紙など、通気性と調湿性のある素材が使われていたことが、湿気対策として役立っていました。
その結果、通気性が良い家ではありましたが、日本の家は寒いと言われてきました。ところが数十年前から、世界的にエネルギーを節約する為の動きが拡がりました。始めのうちは企業努力が求められていましたが、近年は、個人の家庭でのエネルギー消費を抑えることに目が向けられています。
その一環が家づくりの変化です。個人の家庭で消費するエネルギーのうち、冷暖房に使われるエネルギーを減らす為の家づくりが求められるようになってきました。具体的には、高い断熱性と気密性を備えた家にするということです。
断熱施工と内部結露の関係
高い断熱性と気密性を備えた家にする場合、同時に通気が備えられていなければ、内部結露が発生してしまいます。内部結露とは、窓ガラスや浴室の天井に発生する水滴が、壁の中や構造部など、目に見えない部分に発生してしまうことです。結露は窓ガラスや、冷たい飲み物のグラスを見てわかるとおり、ガラスの両面の温度差が大きいと発生します。
壁の中に断熱材を入れると、熱の出入りが妨げられ冷暖房の効率が良くなります。そして冷暖房の効率が良くなればなるほど、家の中の温度と外気温の差は大きくなっていきます。その結果、内部結露が発生してしまうリスクが発生してしまうのです。
内部結露が耐震性を低下させる
内部結露が発生すると、構造部の木材に木材腐朽菌が増殖し、シロアリの餌食にもなってしまう為、耐震性は著しく低下します。過去の大地震で倒壊した住宅の中にも、シロアリ被害で耐震性が低下していた住宅は少なくありません。
■ 家を建てるなら冬暖かく夏涼しい家にしたいという希望を満たしてくれそうな断熱住宅とは、具体的にどのような住宅なのでしょうか?また断熱性には数値による基準の違いがあるのでしょうか?
コラム 家の断熱の基準と断熱を表す数値や工法の違い
適切な断熱施工の重要性
断熱材を入れた壁に内部結露が発生することは仕方ないことなのかと言えば、それは間違いです。施工の方法によって、内部結露は防げます。断熱性の高い家が建てられ始めた頃には、社会問題になるほど内部結露が発生してしまう住宅が多発したことは事実です。しかし、完璧な断熱施工によって高い断熱性を備えている家ではそのようなことは起こりません。
内部結露を発生させない対策と、機械換気と窓からの自然換気、そして家の中の空気を循環させる間取りが計画されていれば、内部結露のリスクは低下します。ある程度の対策はしているという程度の家であれば、数十年前ほどではなくても、内部結露のリスクを抱えています。ある程度の対策での断熱施工をしてしまう理由には、施工力不足、建築費の制限、断熱施工に対する知識と経験不足などが考えられます。
施工力不足には、隙間が多い、壁の中の通気層が塞がれている部分がある、適切に防湿フィルムが使われていない、不十分な換気計画であるなどが挙げられます。さすがに断熱施工に対する知識と経験不足といった理由は少なくなってはいますが、建築費の制限から完璧に断熱施工ができないということも考えられます。
構造部に使う木材の選び方で腐朽菌への耐性が変わります。壁や床に使う断熱材によって断熱性の高さは変わります。その他にもたくさんの要素が断熱施工の予算に関わってきます。従って、家づくりプランの際には、外観や内装、住宅設備機器、住宅の性能などに対する予算の割り振りについて、建築会社と十分に話し合うことが大切です。
参考資料 公益社団法人 日本建築士会連合会 木造住宅の断熱施工の大切なポイント
参考資料 国土交通省住宅局「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」報告書のポイント
■ 注文住宅のプランを作成する際には、外観や内装のデザイン、住宅の性能、間取りなど決めることがたくさんあります。これらのことにすべて関係する要素が窓です。窓の位置やサイズ、開閉方法の違いで、室内環境の快適さ、外観のデザイン性、内装の自由度が変わります。窓の良さを活かし、窓の問題点を発生させない配置と種類について考えていきましょう。
コラム 注文住宅の窓の配置と種類は窓の効果を最大限活かす
■ 理想の家を完成させることと、新居で暮らし始めてからのゆとりある生活を、同時に実現するためには、家づくりにかけられる予算を、明確に割り出すことが大切です。
コラム 家づくりにかかる予算はどうやって割り出す?
木造住宅の湿気対策② 雨漏りへの対策
雨水が侵入することによって家の中の湿度は上昇します。屋根や壁からの雨漏りは目には見えず、徐々に浸透して構造部を劣化させてしまいます。屋根や壁からの雨漏りは継ぎ目からの雨水の侵入が原因ですが、屋根は形状の違いによっても雨漏りのリスクが変わってきます。最も雨漏りのリスクが少ない屋根は4つの面で構成されている寄棟屋根や方形屋根です。その他の屋根に対する注意点を確認しておきましょう。
片流れ屋根と切り妻屋根の注意点
片流れ屋根は1面だけの屋根なので、雨水を屋根に溜めない役目はしっかり果たします。切り妻屋根も水はけが良い屋根です。ただし、片流れ屋根には、屋根の高い部分と壁の接合部、切り妻屋根には大棟の接合部からの雨漏りリスクがあります。その為、そのリスクを発生させない施工力が求められます。
また、片流れ屋根や切り妻屋根は傾斜をきつくして屋根を高くすると水はけが良くなりますが、台風などによる強風からは大きな負担を受ける家になってしまいます。傾斜を緩くすると、強風からの負担は受けにくくなりますが、水はけは低下します。その為、片流れ屋根や切り妻屋根の高さや形状を決める際には、湿気対策に加えて、外観デザインとのバランス、小屋裏利用の仕方、強風対策のバランスを考え併せて計画することが大切です。
特殊な施工力が求められる母屋屋根と陸屋根
高級和風住宅に多い入母屋屋根は、雨漏りリスクの高い屋根です。複雑な形状が屋根に陰影を持たせるので高級感がありますが、その分継ぎ目の部分が多いからです。非常に優秀な施工力が求められます。
特別な防水処置が必要な陸屋根
自宅でグランピングを楽しみたい人に人気の陸屋根も、雨漏りリスクの高い屋根です。陸屋根は屋上を楽しめる分、雨水を流すという屋根の役割を果たさないからです。新築時に特殊な防水工事をするだけではなく、暮らし始めてからも数年おきにメンテナンスを繰り返す必要があります。
壁からの雨水の侵入
まさか新築の家の壁から雨水が浸透することはないだろうと思われる方がほとんどだと思いますが、施工によっては壁からの雨漏りが発生してしまうことがあります。その理由には、窓や換気扇の選び方と施工不良が挙げられます。近年増えている気密性の高い樹脂サッシの窓や、高機能換気設備などの場合は、サッシや換気口から雨水が浸透する心配はありませんが、製品の選び方によってはサッシの隙間や換気口から雨水が侵入する危険性があります。
冬暖かく夏涼しい環境と、どんなに大きな地震が発生しても安全な家を両立させる為に、確実な断熱施工が求められます。快適で安全な家でこそ、家族の幸せな暮らしが育まれます。